Perfect Circuit "SIGNAL" インタビュー
この記事は2024年7月29日に米国の楽器店Perfect CircuitのWebメディア「SIGNAL」に掲載されたインタビュー記事の日本語版です。
素晴らしい機会と本サイトへの再掲載の許可をくださったPerfect CircuitのRyan氏およびインタビュアーChris Hadley氏に感謝申し上げます。
株式会社ソニックウェア 遠藤 祐
誇り高きデジタル
楽器の開発とワクワクの日々
2024年7月29日
Chris Hadley
私たちPerfect Circuitは、Sonicwareが提供する直感的で手頃な価格、そしてとにかく楽しいグルーヴボックス、サンプラー、シンセサイザーの数々に惚れ込んでいることは、もはや周知の事実です。
特別版で超ローファイな「LIVEN Lofi-6 Sampler」の独占販売を担当したほか、「Signal」ではSonicwareの全ラインアップを詳細に取り上げてきました。
そして、最近発売された「LIVEN Ambient Ø Soundscape Synthesizer」に伴い、業界でもお気に入りのデザイナーの一人であるSonicwareを改めて取り上げる絶好のタイミングだと考えています。
Sonicwareの幅広くエネルギッシュな製品群の背景を深掘りするため、Sonicwareの創設者でありデザイナー、そしてCEOでもある遠藤祐博士に直接お話を伺いました。
遠藤博士は、音楽制作、シンセデザイン、そして企業経営に関するあらゆる角度から、その実践について語ってくださいました。
彼は、仕事や音楽制作、デザインに対する視点を非常に深い洞察で共有してくれたのです。
その中では、インスピレーションを与えるサンプラーやクラシックなビデオゲーム音楽、そしてもちろん、新しい「Ambient Ø」についても語られています。
この素晴らしい楽器を生み出した頭脳の中身をぜひ引き続きご覧ください!
An Interview with Dr. Yu Endo
Perfect Circuit: 楽器のデザインを始めるきっかけは何でしたか?音楽からエンジニアリングの道に進んだのですか?それともその逆ですか?
Dr. Yu Endo: 音楽と工学、私の中で最初はそれぞれ別のものでした。どちらかというと初めは工学への興味が強かったと思います。
1980年代にファミコン(アメリカではNES)に夢中になり、いつかこんなTVゲームを作れるようになりたいと夢を見ていました。
お小遣いを貯めて11歳の時にZ80という8bit CPUが搭載されているMSX2というキーボード一体型のホビイスト向けのパソコンを購入したのですが、今思うとこれが工学の道に進む第一歩だったと思います。
MSXを購入してからBASIC言語でのゲームプログラミングに夢中になりました。
音楽に関しては、当時も好きで聴いてはいましたが、制作することはしていませんでした。
そういった経緯から工学系の高校に進学し、更にプログラミングに夢中になりました。
一方で、その頃の日本では未曽有のバンドブームが起きており、ロックやパンクバンドが大人気でした。
その影響を受け、私も日本のロックやパンクロックに熱中するようになりました。
進学した高校の軽音楽部に入り、エレキギターを始めました。振り返ってみると、それが音楽制作への最初の一歩だったと思います。
最初は日本の有名なロックやパンクバンドのコピーを演奏していましたが、次第に自分の音楽を作る楽しさに気づき、のめり込んでいきました。
その後、大学では「ハードウェアとソフトウェアの協調設計方式」という工学系の研究に夢中になりながら、プライベートでは自分でオリジナル曲を制作しバンドでライブを定期的にするような生活を送っていました。
当時から、何かをつくるというのが好きでしたが、学生時代はこの2つを融合するに至っていませんでした。
大学院に進学したころに、就職のことや将来のことを考え始めました。それまでは目の前のことに夢中になっているだけだったかもしれません。
初めて自分に合った仕事とは何だろうと本気で考えた結果、大好きな工学と大好きな音楽がやっと結びつきました。
「楽器」というと何となくアコースティックなイメージがあったのですが、自分の大好きな音楽と工学が結びつく「電子楽器」は私にとって人生で取り組むべきテーマなのではないかと思ったわけです。
その後、日本にある楽器メーカーに就職し、電子楽器開発のキャリアがスタートしました。
PC: Sonicwareでのあなたの仕事は、CEO、シンセデザイナー、プリセットのグルーヴやパッチの作曲者など多岐にわたります。会社のさまざまな側面に直接関与するこのようなアプローチを、どのように管理しているのですか?
YE: Sonicwareでの私の役割は多面的であり、その仕事量は膨大で複雑に見えるかもしれません。この質問にはいくつか重要なポイントがあるので、それを分けて説明しますね。
1.「仕事」とは何か?
面と向かって言われることは多くはないですが、私は人から仕事中毒と思われることがあります。
私はスタッフに対して仕事中毒になれなんて絶対に言いませんが、人から見ると私はずっと仕事しているようにも見えたりします。
実際、このインタビューに応えているのも、息子が加入している地元の少年サッカーチームの活動を終えた週末土曜日の夕方です。(ちなみに私はこのチームの保護者コーチをしているのですが、今のところU-8、U-9と地元で2度優勝しているのが少し自慢です!笑)
話が脱線しましたが、私には恐らくオンとオフが存在しません。
誤解を招く言い方かもしれませんが、仕事が遊びだし、遊びも仕事です。
遊びと仕事のグラデーションの中を生きています。
アイデアは遊びや消費行動の中から生まれることが多いですし、実際、仕事とは何なのか?という線引きが難しくなってくる世の中になってきたと思います。
だからといって面倒なことがなく楽しいことばかりかといったら、全然そうではないです。
むしろ面倒くさいことの方が多いです。
ただ、面倒だからといって嫌ではないので、面倒を楽しんでいるときもあります。
また、ほぼ全ての「価値のある」クリエイティブは、面倒くさいことの先にあるものだと確信もしてます。
仕事とは遊びであり、遊びは仕事でもあり、始業も終業もなく膨大で面倒くさい、けど嫌ではなく楽しい。
ゆえにオンもオフもなくずっと続いてる。
まず前提として、私の中のマインドセットされている仕事とはこのような感じのものです。
2.実践的なアプローチ(3つのコツ)
私はSonicwareの中で複数の役割がありますが、最近の役割を大きく分類すると概ね下記のようなものです。
- 経営(経営者)
- シンセサイザー/プロダクトデザイナー(プランナー/ディベロッパ)
- プリセット作曲、PVの作曲やディレクション(アーティスト)
改めて考えてみますと、これらの役割を全うするためにはいくつかのコツがありました。
せっかくなので3つのコツをシェアします。
(a) 思考を進める
これは単に、思いつく、ひらめく、とかではなく、意識的に「ある仕組み」をつかって連続的に自分と対話しながら考えを進めていく手法です。
何か問題や考えなくてはいけないテーマがあったとして、その場の思い付きで思考を終わらせずに思考をし尽くす、ということです。
簡単にいうと、昨日の自分と今日の自分で毎日会議するようなものです。
私が思考を進めたいときに使っている手法は、大変アナログなもので拍子抜けするかもしれませんが、B6サイズのカードに1つの事項に絞って現在の考えを記すというものです。
ポイントは1枚のカードには1つのテーマしか書かないことです。
そして次の日に、過去に書いたカードをざざっと繰り、過去の自分と対話して新しい考え、違う考えが生まれたら追記したり新しいカードに新しい考えを書き起こします。
こういったことを毎日1時間程度やり続けると、思考が洗練され深くなり、物事の本質に近づけるような気がします。
特に経営のことや製品企画を考えるために、毎日1時間、過去の自分とディスカッションしているような状況を意図的に作り出しています。
(b) タイムマネジメントしてモードを切り替える
音楽を制作したりサウンドデザインをするときは、自宅で作業するのですが、1~2週間程度のまとまった時間を確保するようにしています。
とは言え、会議などを0にすることは出来ないので、具体的には、月曜は会社でほぼ1日会議をして、火曜から金曜は必要に応じてなるべく午前中に会社での作業を済ませ、午後からは自宅のスタジオに籠ってサウンドデザインや音楽の制作をするようにしています。
私にとってサウンドデザインと楽曲制作をする際、外部からの割り込みを遮断して、連続した集中した時間の流れを作り出すことはとても重要です。
音に関する作業をするときは、集中できる場所とまとまった時間、これが必須条件と思います。
(c) くよくよせず楽しく生きる
ある本に書いてあった「言い訳の人生を送らない」という言葉に私はとても感銘を受けました。
誰しも思い通りに進まないことに直面する時があります。というか、大体のことは思い通りに進みません。その時に「あいつのせいで」とか「あの時こうだったら」とか、言い訳をしたくなりますが、それをした瞬間に、自分の人生を生きているのではなく、「言い訳にした誰か」の人生を生きていることになってしまいます。
例えば、「親のせいで私は○○が出来なかった」というのは、「親の言う通りの選択を私がした」というのが実際のところで、本来なら親の言う通りの選択を取った自分の責任です。
ですので、自分に言い訳をしてしまうと、それは自分の人生を放棄し他の人の人生を生きていることになってしまいます。
自分を信じ、自分の行動を100%自分で決めれば、その結果がどうであれ、清々しくその結果を受け入れることができると思います。
そうしていれば、あまり過去の失敗にくよくよしないですし、例え失敗することに不安になる日があったとしても、100%出し尽くしてもなお失敗するなら、もう仕方ないと良い意味で開き直れます。
そんな風に在り続けていくと、平穏でポジティブに目の前の仕事に取り組んでいけると思います。
PC: SmplTrekやTexture Labなど、サンプルを使ったインスピレーション溢れる音作りは、Sonicwareが得意とする分野です。デザインに影響を与えた特定のレトロなサンプラーや、興味深いサンプラーはありますか?
YE: サンプルをベースとした機材に関して言えば、約30年前、私はZOOM ST-224サンプラーとAKAI DR8マルチトラックレコーダーを使ってブレイクビーツを作ることに夢中になっていました。しかし、SmplTrekのような製品のデザインに影響を与えたという意味では、YAMAHA QY8との経験が大きなインパクトを与えたと思います。携帯可能で電池駆動のデバイス、まるでゲームボーイのような感覚で簡単に音楽を作れることに、とてもワクワクしたのを覚えています。
Texture Labに関しては、これは元々Texture LabとLofi-12と合体したような、サンプルベースのエンジンを搭載したひとつのLIVEN企画からスタートしました。
ある程度試作できた段階で実際にテストしてみて、サンプルベースのマルチエンジンというのは機能は豊富ではありますが、コンセプトがぼやけており、操作は複雑で、結果としてあまり楽しい製品になるとは思えませんでした。
そこでコンセプトを見直し、Lofi-12では意図的にサンプルレートを落として処理をすることでシミュレートではない本当のLofiサウンドが出せる製品にし、またTexture Labでは如何にサンプルベースで有機的なサウンドを再構築できるのかを弊社のVice Presidentの須藤さんやマーケティングや企画にも参加してもらっている佐藤さんと一緒に社内で何度もブラッシュアップしていくことで完成しました。
製品コンセプトを明確に出来たことで、我々も向かうべきゴールが明確になり、結果として使い手にインスピレーションを与える機材になったと思います。
PC: LIVENやSmplTrekユニットは、単一の楽器として定義されるのではなく、マルチトラックのアンサンブルツールを提供しています。グルーヴボックスやシーケンスベースのアレンジは、Sonicwareが常に作ろうとしていたものですか、それとも自然にそのニッチにたどり着いたのですか?
YE: 私たちは自然とそのニッチにたどり着きました。実際私たちは常にマルチトラックのアンサンブルツールを作ろうとしているわけではありません。
ELZ_1はアンサンブルベースではなかったですし、LIVEN 8bit warpsも初期段階では他の機材と接続することで楽しめるグルーブボックスを目指して開発がスタートしていました。ただ、開発していく過程で、他の機材と接続しなくても楽しければ、そっちの方がもっと良いよねって考えが変わり、マルチトラックルーパー機能を搭載したことを覚えています。
次に出したLIVEN XFMでは明確にマルチトラックでのアンサンブルを意識しました。
Sonicware製品は4~8トラックのものが多いですが、多すぎないトラック数というのはある種の制限ではありますが、無限に何でも出来てしまうより、何かしらの制限の範疇で制作する時の方がインスピレーションが湧くことが多いと思います。
そういう意味でLIVENシリーズは簡単にアンサンブルが作れることと、ある程度の制限があることでインスピレーションをもたらし、ちょうどいいのかもしれません。
また、LFOなども搭載していますが、シーケンスベースでの音の変化やランダム性も、サウンドが画一的にならなかったり、シーケンスを再生しながらサウンドの後EDITを通して、自分が想像していない新しいサウンドの変化に出会える面白い手法と考えています。
PC: Sonicware の最初のデバイスである ELZ_1 は、最近 ELZ_1 play として復活しましたが、Web サイトでは「Proudly Digital」と説明されています。デジタル オーディオのさまざまな機能を探求することは、サンプラーから FM や 8 ビット シンセまで、Sonicware のデバイス全体に見られる傾向です。
デジタル オーディオのさまざまなサウンドの可能性を探求するデバイスを作成するようにあなたを惹きつける何か特別な理由はあるのでしょうか?
YE: はい、あります。
念のため明確に言っておかなければいけないですが、私は学生時代にやっていたバンドではマーシャルのJCM900を主に使ってましたし、趣味の電子工作ではアナログエフェクターをよく作っていましたのでアナログのサウンドも大好きですし、今ではこうやってデジタルシンセなどを開発しているのでデジタルサウンドも大好きです。
また、私はアナログサウンドとデジタルサウンドの優劣などについては特に意見はもっていませんし、デジタル信奉者というわけでもありません。
音は音です。
とは言え、どちらかというと反骨精神っぽいエピソードに聞こえてしまうかもしれません。
2000年代初頭にデジタルエフェクターを作っている会社に就職して、私は何機種かマルチエフェクターやMTRを作ったのですが、その時、よくデジタルエフェクターに否定的な声を聞きました。
音を聴く前にデジタルだから冷たい音と言われてしまったり、当時の開発者の中にもそのような声にただ仕方ないと同調する方もいました。
私はファミコンから聞こえてくるドラゴンクエストのオーケストラサウンドにも感動したし、デジタルサンプラーでビートを作るのを楽しんでいたので、デジタル的な手法が感情のない冷たい音、といった風に捉えられてしまったことに悲しくなりました。
その時から私は、「デジタルにしか出来ない表現が絶対あるし、それは決して無機質なものではない」と強く信じていましたし、デジタルであることにもっとプライドを持つべきだと思っています。
そして今でも全く新しいサウンドアーキテクチャーはデジタル的なプロセスを経た先にあると信じて、日々取り組んでいます。
PC: デザイナーやミュージシャンとして、あなたを「ローファイ」オーディオ処理に惹きつけるものは何でしょうか?また、なぜローファイサウンドは音楽や楽器業界でこれほどまでに人気を保ち続けているのでしょうか?
YE: 子どもの頃、家にラジオ、マイク、スピーカーが付いたポータブルカセットデッキがあり、それをおもちゃのように遊んでいました。お気に入りのテレビ番組の主題歌や自分の声を録音しては再生するというシンプルな行為が、とても楽しかったのを覚えています。
ローファイオーディオのシンプルな曲構造や、洗練され過ぎていない音、そしてそのノイズには、聴いていて心地よさを感じます。ノスタルジックな側面もありますが、音そのものがリスナーにとって癒しや安心感を与えると感じています。これがローファイサウンドが人気であり続ける理由の一つではないでしょうか。また、ローファイの楽曲は構造がシンプルなものが多く、初心者でも音楽制作を始めやすい点も魅力的だと思います。
ローファイはただ懐かしいだけでなく、音楽をより身近に感じさせ、人々に創作の楽しさを提供してくれる存在だと考えています。
PC: LIVENシリーズをはじめとするSonicwareのデバイスは、初心者から経験豊富なプロまで、多くの人々に使用され楽しんでいただいています。特にLIVENシリーズは、価格以上の性能を発揮する手頃なツールを提供しています。アクセシビリティや楽しさと、深さや機能性とのバランスをどのように決定したのですか?
YE: このバランスを取ることは非常に難しく、現在も研究と改良を重ねています。私たちのミッションは、ミュージシャンにインスピレーションを与え、新しい音楽の創造に貢献することです。そのため、すべての楽器は、ユーザーにインスピレーションを与えることを最優先の目的として設計されています。
これを完璧に実現するのは難しいですが、企画や仕様策定に関わる少人数のチームがプロトタイプを継続的にテストし、改良案を出し続けています。また、私自身もプロトタイプを実際に使用して曲を作ったり、デモ動画を制作したりする時間を多く取ることで、改良が必要な点を即座にチームにフィードバックしています。
私が特に重視しているのは以下の3つです:
- 「何でもできる」ものにしないこと
「何でもできる」は「何もできない」と同義であると思ってます。ややこしいですが、何でもできるようにすると、逆に何も得意でなくなってしまう、といった考え方です。
特定の目的に集中する方が魅力的な製品になります。
- 適切な機能のパッケージ化と機能の削減
これは一見制限のように思われるかもしれませんが、実際には創造性を刺激します。
無限のキャンバスとすべての色を与えられるよりも、小さなスケッチブックと12色の色鉛筆を使う方が、かえってインスピレーションが湧くものです。
- 厳密に論理的であるよりも直感的なデザインを選ぶこと
エンジニアリングの観点から完全に論理的でない仕様であっても、使いやすさを向上させたり、創造性を向上させるのであれば、それを積極的に採用するべきだと考えています。
これらのポイントを通じて、ユーザーが使いやすく、楽しさを感じられる製品を目指しています。
PC: Sonicwareの各デバイスはバッテリー駆動が可能で、オンボードスピーカーも搭載しているため、どこでもグルーヴやテクスチャを生み出せる高いポータビリティを備えています。なぜポータビリティがデザイン目標の中で繰り返し重要視されるのでしょうか?
YE: 私は若い頃から、楽器やノートを使ってどこにいても音楽を作っていました。食卓で歌詞を書いたり、ベッドに寝転がりながらギターを弾いてメロディを考えたり、畳の上でMTRに録音したりしていました。特定の場所にこだわらず、作曲や制作を行ってきました。
ギターでも、QY8でも、リビングのアップライトピアノでも、様々な場所で色んな楽器を使うことは私にとって自然なことでした。
音楽を作っているとき、特に目的もなく家の中を歩き回ることってありませんか?
普段は主にLIVENシリーズやSmplTrek、Lofi-12 XTを机で使っていますが、簡単にリビングやベッド、ソファ、庭に持って行けたり、バックパックに入れて散歩に持ち出せるという安心感が、私に自由さを感じさせてくれるのです。
もちろん、これが今後すべての製品にバッテリー駆動や内蔵スピーカーを必須にするというわけではありません。製品のコンセプトや種類によって異なります。
PC: LIVENシリーズでは、特定の音楽的目標に特化した楽器を提供しています。Lo-Fiグルーヴボックス、Bass and Beats、Texture Lab、MEGA Synthesis、そして新たなAmbient Øなど、それぞれが特定のジャンルに焦点を当てたツールです。それぞれが意図した用途に素晴らしく応える一方で、世界中のミュージシャンによる意外な使い方に驚かされたことはありますか?
YE: ユーザーが共有してくれる動画で聴ける素晴らしいサウンドには、いつも驚かされています。身近なところでは、サウンドデザイナーが作成したプリセットの創造性や工夫にも驚かされます。
たとえば、8bit warpsでは、当初リズム作成に使用されるとは予想していませんでした。しかし、あるサウンドデザイナーがスウィープやパラメーターロックを駆使して、キック、ハット、スネアの音を作り出しました。このアイデアには本当に驚きました。その結果、後のファームウェアアップデートで「サウンドロック機能」とドラム音を追加し、ユーザーが8bit warpsでドラムパターンを作成できるようにしました。
ユーザーの創造性に刺激され、新しい機能を開発することは、私たちにとっても非常に楽しい体験です。
PC: LIVENシリーズの最新機種であるAmbient Øでは、独自のシンセエンジン「Blendwave Modulation Synthesis」が実装されています。このエンジンは、既存のウェーブテーブルベースのデザインとはどのように異なり、アンビエント音楽やサウンドスケープに最適化するためにどのような工夫がなされたのでしょうか?
YE: アンビエント音楽向けの製品を開発しようと決めた際、いくつかの初期コンセプトを模索しました。最初に検討したのはドローンに特化したマシンで、ドローンサウンドのうねりを楽しむというコンセプトでしたが、楽しむ境地にいくまでのハードルが結構高い仕様になっていました。
これだと多くの人が楽しめる状況にまで行かず、インスピレーションを与えるのが難しい、また既に価格は高いですが同じような機材も存在しており、我々がやる意味や新規性があまりないと思いました。
そこで、DRONE、PAD、ATMOS、NOISEの4層構造に落ち着き、それぞれのレイヤーのニーズに合ったシンセエンジンの設計に注力しました。たとえば、DRONEやPADにはモジュレーションを加えた基本波形を使用し、ATMOS用にはランダム波形を出力する新しいオシレーターを開発しようと考えていました。
こういった検討を進める中で、チームメンバーの佐藤さんが「ウェーブテーブルベースのエンジンがこれらすべてのニーズを満たせるのではないか」と提案しました。このアイデアを基に、佐藤さん、須藤さん、そして私の3人で、ウェーブテーブルベースのアプローチでアンビエントサウンドを作り出す可能性を探りました。
その結果、
- ウェーブテーブルをアンビエントに特化したものを搭載する。
- 各レイヤーにあったストラクチャーを導き出し、実装する。
- 必要に応じて今までLIVENシリーズにはなかったUNISONなどのボイスモードも搭載する。
こういったことを複合的に実施することで、アンビエント音楽やサウンドスケープに完璧に適したエンジンを実現することが出来ました。
このエンジンの特徴は、アンビエントサウンドのために細かく調整されたウェーブテーブルとレイヤーごとに専用設計されたストラクチャーにあります。これにより、汎用的なウェーブテーブルシンセエンジンとは一線を画した、アンビエント音楽に特化したサウンドを実現しています。
PC: ハードウェアやソフトウェアの設計に加え、複数の製品で多くのプリセットアレンジやシーケンスも担当されています。新しいAmbient Øのプリセットにも美しい例が見られますが、ユーザーにインスピレーションを与える出発点としてのアレンジを作成する際、どのようにアプローチしていますか?
YE: プリセットを美しいと感じていただけたのは本当に嬉しいです。ありがとうございます。
プリセットやシーケンスを作成する際には、製品のコンセプトと世界観をとても大切にしています。Ambient Øの場合、DRONE、PAD、ATMOS、NOISEという4つのレイヤーを持つので、その構造が正確に反映されるよう、プリセットを設計しています。また、ユーザーが混乱しないよう、複雑になりすぎないよう心がけています。
PRESETソングに関しては、ユーザーにインスピレーションを与える出発点を作ることを目指しています。また、シーケンスを再生しなくても、ただプリセットを演奏するだけで楽しさを感じられるような設計も心がけています。
プリセットを通して、最初から楽しく魅力的な体験を提供できることが理想です。
世界観に関しては、心が動くようなサウンドやアレンジを作ることに重点を置いています。私の曲は複雑なコード進行を含むことはほぼありませんが、サウンドや楽曲がリスナーの感情を動かすかどうかに細心の注意を払っています。私自身、自分が作った曲に感動できるかどうかをひとつの基準としています。
PC: アンビエント音楽はあなた自身の音楽的嗜好において重要な部分を占めていますか?それとも、あなたが作るデバイスと同じように多様な音楽への興味を持っているのでしょうか?
YE: 後者です。かつて母が音楽の練習スタジオを経営していて、学生時代にはそこで手伝いをしていました。さまざまなジャンルの音楽を演奏するバンドのライブを見たり、デモテープを聴いたりするのが楽しかったです。特定のジャンルに詳しいわけではなく、興味は時期によって変化します。
最近は、シネマティック、アンビエント、レトロコンピュータミュージック、サイケデリックトランス、ローファイチル、ヒップホップ、サイバーパンクに惹かれています。
PC: Sonicwareのミッションステートメントでは、電子楽器の再発明と進化を通じて文化と創造性を刺激することを目標とし、「ポストシンセサイザー革命」への継続的な道を歩んでいると述べられています。この目標に向かって進む中で、あなたのデバイスの中で特に成功したと感じている要素は何ですか?
YE: 正直なところ、私たちはまだ挑戦の途中にあるため、決定的に成功したとは言えません。ただし、開発プロセスの中で「少し進歩した」と感じる瞬間があります。
これまでのところ、以下の2つの重要な要素が挙げられます:
1. 新しいサウンド表現
LIVEN XFMの開発中にこれを強く感じました。このシンセサイザーはFMシンセですが、従来のアルゴリズムという概念を基本的に排除しました。その結果、2つのFMサウンドを音楽的に整合性を保ちながらモーフィングすることが可能になりました。従来のアルゴリズムベースのサウンド作りも引き続き可能ですが、X-LABエンジンでは2つのサウンドパッチを連続的かつ直感的にモーフィングさせることで、有機的なFMサウンドを作り出せます。さらに、そのモーフィングされたサウンドをX-LABエンジンで新たなサウンド作りの素材として活用できるため、サウンドデザイン方法へのアプローチと結果出てくるサウンドの両面で高い新規性があります。
2. 新しいシンセサイザーのユーザー層
当初は、革新的なシンセシスから生まれる新しいサウンド表現こそが、新しい音楽の誕生や文化の発展に最も寄与すると思っていました。しかし、それだけではありませんでした。
たとえば、これまで音楽を作ったことがない人が初めてハードウェアシンセサイザーを手に取り、自分の創造性を使って新しい音楽を作ることも、音楽文化の発展に寄与しています。
具体的には、MEGA SYNTHESISやLofi-12は、多くの初心者が初めて購入するシンセサイザーとなり、これまでシンセに触れたことのない人々にも利用されています。これは、この分野における新しい創造性の増加を意味します。
特に、ゲーム音楽愛好家やローファイ音楽のリスナーがLIVENシリーズを使って創作に挑戦していること、そしてそのような人々にクリエイティブな素材やテーマを提供できたことに、とても喜びを感じています。
PC: LIVENやSmplTrekのフォーマット以外の楽器を作る計画はありますか?
YE: はい、新しいハードウェア製品の開発は数年単位の大きな取り組みですが、私たちは引き続き、皆さんの創造性やインスピレーションに貢献する楽しい楽器を作り続けたいと考えています。これからもワクワクするような新製品をお届けできるよう努力を続けていきます。